避妊や人工妊娠中絶、
流産手術



   フィリピンでは、宗教的、法的な背景から避妊の方法の選択範囲が日本に比べてはるかに少ない。一時的な避妊の代表的な方法には、コンドーム、避妊ピル、IUD(子宮内避妊器具、避妊リング)等がある。また、永久的な避妊法として卵管結さつや精管結さつ手術が行われる。フィリピンに一時的に滞在する日本人家族など、異国での分娩の不便さなどから避妊を計画する事が多いようであるが、日本とは事情が全く違う事を考慮しておかなければならない。

   最近では、政府が人口問題と取り組みコンドームも避妊ピルも入手が可能になってきてはいるが、その他については未発達である。避妊に失敗した場合の人工妊娠中絶術はフィリピンでは不可能である。日本でも法的条項に合致しなければ人工妊娠中絶術は許されていないが、経済条項などにより多くは可能になっている。フィリピンでは妊娠した場合は分娩するしか方法がない。しかし、宗教的あるいは慣習的な伝統からか、子供に対する保護の精神が強く親ばかりでなく周囲の協力も暖かいものがある。未婚の母にしても、かえって普通の夫婦の子供達よりも暖かく祝福するという光景を見る事ができる。貧困や人工問題の妨げになる避妊法の未発達も、社会的には相互助け合いによって受け入れられているようである。

   フィリピンにおける人工妊娠中絶術の禁止は、日本人が避妊に失敗して妊娠する問題ばかりでなく、自然流産の処置についても影響を与える。日本では超音波等の機器による診断で胎児の死亡が確定した時点で流産時の多量の出血を防ぐために人工妊娠中絶の技術を応用して死亡した胎児を取り出して流産を終結させてしまう事が多い。しかし、フィリピンでは医師自身も人工妊娠中絶術の技術に習熟する機会が少ないために、出血など自然に流産が開始するのを待ってから治療処置をする事になる。

   このように、宗教や法的規制の違いは医学的な技術や対応にも大きな影響をあたえることがある。

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