航空機と病気



   いくら近くても、今や船で移動の機会は少なくなり、ほとんどが航空機による移動である。航空機による移動には、急病などの時に医療環境から隔絶されている危険性という時間的な要素もあり、飛行時間の短いフィリピンはその点では恵まれている地域である。しかし、健康な場合は良いが、搭乗前から病的状態を抱えての飛行となるとかなり難しい問題が多数出て来る。飛行機内の客室は、気圧が低くさらに高度で気圧が変化するし乾燥している事が多い。呼吸器系の疾患には例え風邪と通称される軽度のウィルス性上気道炎でも、かなり悪化させる要因を持っている。密閉された閉鎖環境という事で気道感染などの空気を介する感染症では同乗者に感染させる危険もある。マニラでは、インフルエンザの流行期に安静を指示されていた患者が、所用で航空機を利用したためと思われる肺炎へ進行して入院治療が必要になった症例が多く見られた。これは呼吸器感染の場合には肺の安静が重要なのに、航空機内の薄い空気から必要な酸素を取り込まなければならないために、自然に起こる呼吸数の増加や乾燥した空気が病気に悪影響を与えたと理解できる。また航空性中耳炎と呼ばれる病気も、中耳と口腔をつないでいる耳咽頭管が中耳内の気圧を外界と同じように調節しているメカニズムが風邪などの炎症症状で傷害されていると起こりやすい。健康な人でもこの調節がうまく出来ない人は耳閉感等の耳の異常を訴える事がある。つばを飲み込んだりすると自然に調節されるので、離着陸時に飴をなめると起こりにくい。このために航空会社が離着陸前に飴を配っている事もある。乳児などではこの調節が出来にくく、離着陸時に痛みを感じて突然泣き出す事もある。離着陸時にミルクを飲ませるなどの注意で切り抜けられたり乳幼児の航空性中耳炎を予防する事も出来るであろう。

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