デング熱 |
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デング熱は主に熱帯イエ蚊(Aedes aegypti)によって媒介されるウィルス性の疾患である。蚊に刺されてから4から10日後に寒気とともに突然高熱(39.5度以上)がでる。ふしぶしが痛む、腹痛、腰痛、目の奥が痛む、だるいなどの症状も見られる事が多い。4から7日間発熱が続き、一度熱は下がりますがだるさと共に全身に発疹が出てくる。発疹は2ー3日でかゆみが出て治って行く。リンパ節が腫れたり、黄疸が出る事もあるようで完全に回復までには結構時間がかかり約一ヶ月間はだるい、無気力などの症状が残る。一般に予後が良好といわれているが、一部に出血熱といわれる経過を取るものもあり、出血の為に死亡する例もあるので十分な安静と経過観察が必要である。時には入院して経過をみる必要がある。死亡例は主に小児に見られている。
診断はこのような発熱の経過や痛み、発疹等を参考におこなって行く。しかし、患者により症状の出方に差があり、またこの病気の経過の各時期により類似の症状を示す疾患もあるため診断は容易ではない。このような症状をおこすウィルスの研究もまだ十分ではなく、4種類のウィルスが知れているが他にも知られていないウィルスが関与している可能性も十分にある。また、一般のウィルス性疾患のように一度かかるとかかりにくい等の現象もはっきりしていない。この為に臨床的な症状からデング熱と診断される場合とウィルス学的にデング熱と診断される診断との間にまだかなりの差がみられている。デング熱は一部に出血熱やショックで死亡することもある病気なので、臨床的には疑いの段階でも十分な注意観察が必要である。
臨床的には、発熱の経過や症状の他にターニケット試験と言い血圧を計る要領で上碗部に一定の圧を加えて置き前碗に点状の出血班が見られること、また血液検査で白血球や血小板が減少していること等から総合的に診断される。出血やショックという恐ろしい症状は、発熱の経過や他の症状とはあまり関係なく突然出てくる事があるようで、鼻出血や歯茎からの出血等の症状をともなう場合は入院しての経過観察が原則と思われる。出血やショックはウィルス感染によるアレルギー反応が関係していると言われているが、まだはっきりした結論は出ていないようである。
ウィルスが血管の内皮細胞や血小板という出血を止める役割をする血液中の成分を破壊する性質を持つために、重い場合には出血やショックなどの命に関わる症状も出てくる。治療は症状が軽い場合には必要がなく、経過を診るだけで十分な事が多い。勿論、痛みを止めたり熱を下げたりする為の症状を軽くする薬は使われる。しかし、このような症状を取るだけの対症療法と呼ばれる治療に使われる薬の中にも、アスピリンのように血小板の働きを悪くするために病気を悪くするような不適当な薬もある注意が必要である。出血時に輸血が必要になる場合もあり、免疫機能をコントロールしてアレルギー反応を抑える目的や組織の修復を促し、血小板を増やす等の目的でステロイドが使用される事もある。
予防は蚊に刺されないようにすることが第一である。熱帯イエ蚊(Aedes aegypti)は日中から夕方の人の活動時間に刺す習性を持っているために主な媒介源として重視されているが、他の種類の蚊によっても媒介されている事が分かっている。デング熱に感染した患者が発症してから最初の3日間に蚊に刺されるとその蚊が感染する。そして蚊が感染してから8から11日目になると人に感染させる事ができるようになり、その蚊が生きている間は感染力を持ち続けることになる。蚊が卵を通してこのウィルスを伝え、次世代の蚊が感染力を持ち続ける事は無いともいわれている。しかし、この点には異論もありまだはっきりしていないようである。
蚊に刺されないようにする事は困難なので、蚊の地域的な駆除が必要になる。さらに発症した人が蚊に刺されないようにする事も他の人への感染を防ぐために重要である。この種類の蚊の行動範囲はあまり大きくなく最大でも数百メートルで、夕方早いまだ明るい時間帯に活動的になり人をさすことが多いと言われる。発症者が出た場合は屋内や家の周りを中心に蚊の駆除や発生源となる水溜りを取り除くなどの手段が有効であろう。同一家族内の感染例も結構多く見られるので、発生後は十分に注意すべきだと思われる。また、デング熱の発症者が人の集まるところで蚊に刺されますとその地域の蚊を汚染して、そこに集まる人に感染の危険をおよぼす事になる。行動範囲の小さい蚊にも関わらず都市部など人口密集地に流行が見られるのは、行動範囲が大きい人によって媒介されていると考えても良いだろう。また、自力では行動範囲の小さい蚊でも車などの移送機関と共に遠方に運ばれているようなので、流行地などに行った場合は、車の中に入り込む蚊の駆除も徹底して行った方が良いであろう。地域としての蚊の駆除、特に学校や病院、会社等の人が集まる場所での徹底的な蚊の駆除が流行を防ぐためには重要であろう。
雨期に入るとフィリピンではデング熱に関する報道が増えてくる。一年を通して散発的にみられる病気だが、雨季その流行のピークが見られる。1996年も6月に中部ルソンを中心に流行が見られはじめ、8月2日にはラモス大統領自らが国家規模での媒介となる蚊の一斉掃討を指示しなければならない事態になった。未開発の丘陵高地を中心に流行をおこすマラリアとは違い、デング熱は人口の密集した都会地に流行するので、かなりの日本人がかかっている。