医薬分業



   日本でも最近になって医薬分業化が進められつつあるが、大部分は診療所や病院で薬を出している。フィリピンでは古くから医薬分業制が確立しており、医師が服用すべき薬を指示するだけで薬を売る事は出来ない。医師はオフィスで服用すべき薬の名前と量と服用方法を書いた処方箋を渡すだけである。日本にも調剤薬局と呼ばれ処方箋によって薬を出す薬局はあるが、化粧品を売っていた処方箋のいらない薬だけを売っていたり等、わかりにくいしなじみがうすい。

   フィリピンでは薬局の整備が整っており薬局が至るところに見られ、どこでも処方箋の薬を売ってくれるのである。場合によっては24時間に近い対応をしているところも多い。勿論、日本のように風邪薬や弱い鎮痛剤など処方箋無しで買える薬もおいている。そして、医師にかかる必要のないと自分で判断した人達は薬局に直接行き薬剤師に相談して薬を買って自分で治療できるのである。いずれにしてもフィリピンでは薬局も一つの医療機関として重要な役割をはたしている。薬局の中には医師の処方箋の必要な強い薬も一部処方箋なしで売っている所もあり問題視されている。このような薬局の直接利用は、医師にかかる経済的な余力のないフィリピン人はしかたがないとしても、経済的な余力のある日本人にはお薦めできる方法ではない。大きい病院の中に薬局があるところもあるが、街中にある独立した薬局が病院の中にあるだけで、日本の病院に付属していてその病院の医師が処方する薬を出来るだけ取り揃えていて患者に渡すいう薬局とは本質的に違う。そのため、おいている薬品の種類が少なかったりその病院のオフィスで処方された薬が置いてなかったりする事もまれではない。市中の大きい薬局の方がはるかに多くの医薬品を扱っていることもある。

   中にはオフィスで緊急の為の小量の薬を患者に売り稼ぐ医師もいると言われているが、この行為は「机の引き出しの中の薬局」といわれ黙認されてはいる場合もあるが、薬剤師の手を経ない調剤投薬行為はフィリピンでは医師であっても、特別な場合を除いて、原則的には違法行為とされている。

   フィリピンので使用される医薬品は輸入品が多い。ほとんどが輸入品といってもいいほどである。錠剤などには一錠ごとに製品名と成分名を表示するように法律で定められており、患者が服用している薬品が分かりやすい。しかし、この包装の違いの為か、フィリピンの医薬品はフィリピンで作られていると誤解する人が多いのか、日本人の中にはフィリピンの薬は効かないと訴える方がしばしば見られる。輸入品だと分かると安心する方が多いという奇妙な現象がある。

   薬局にはすべての薬がそろっているわけではなく、処方箋の薬が得られずに数件の薬局を探さなくてはならない場合もある。医薬品の中には、成分が同じでも製薬会社によって製品名が異なっており、医師が製品名を指定するとこのようなことが起こり易い。フィリピンでは、医師は成分名で処方しなければならない法律があり、製品名で指定された場合には成分名が同じならば良いのかどうかを医師に確認することも重要である。このような特別の必要がない場合には、同じ成分の他の名前の薬を買っても問題は起こらないので、薬局で同じ成分の別の製品で良い旨を伝えると簡単に手にはいる場合も多い。

   フィリピンの薬の薬容量が日本人にとっては多い言われる事がある。販売されている薬一錠当たりの薬容量が多いものも見受けられるが、処方する医師が服用すべき薬容量を決定している。日本では健康保険などで処方すべき薬容量が制限を受けており医師が十分に自由裁量を発揮しにくい面がある。フィリピンでは医師が日本より多めの薬容量を指定する事がある。小児科などではシロップ剤など薬容量を加減し易い製品がそろっており、医師の薬容量の決定には余り問題ないものと考えられる。また、この多めの薬容量や強い副作用のある薬品の使用は専門医だけが行うなどの暗黙の了解があるようなのでさらに安心できる。薬の中には、抗精神薬と呼ばれる睡眠薬をはじめとする一群の薬や、麻薬指定の薬、特に何らかの使い方が難しいと考えられる薬品は専門医として使用認可をうけ登録番号を処方箋に記載する事になっており、医師の処方箋にこの登録番号が記載されていないと薬局は売ってくれない。これらの薬品についてはさすがに管理が厳しくなっている。

次へ→ 専門医制度
戻る→ Dr.高濱の部屋