専門医制度 |
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フィリピンでは、アメリカの医療制度の流れを受けて高度の試験資格制度をともなう専門医制がしかれている。特殊な検査や治療に当たる医師は、医師としての試験の他に専門医として認められる為には学会に所属し、所定のトレーニングを経てその試験をパスしてなければならない。そして、その資格をとった医師にだけ検査や治療行為が許されている部分が多いのである。日本で言えば麻酔医としての認定を受けた医師だけが麻酔をかけられると言うような状況が、手術やレントゲン診断、超音波検査、放射線治療、理学療法、臨床病理診断などあらゆる分野に設定されている。前にも述べたように検査室にも臨床病理医という検査専門の資格を持った医師が必要なのである。これらの専門医は試験を通ると医師国家試験を実施し資格を管理しているPRC(Profession Regulation Committee)という機関に登録され成績と同時に公表されている。従って、この専門医も国家試験と同等の質を持っていると考えてよい。 フィリピンの専門医はアメリカと直結しており、アメリカで専門医として患者を診療できる資格を持っている者が多い事も日本とは違った特徴である。日本の医師でアメリカで患者を直接診療できる臨床資格を持って勉強して来ている医師は教授クラスを含めても非常に少ない。しかし、フィリピンの医師達の多くは、アメリカで診療できる医師の試験をめざしたり、アメリカの専門医の資格をねらい、アメリカで専門医として成功できる者はアメリカに行って活躍している。そして、多くはフィリピンにもどったり、残って診療や教育にあたっている。この為、フィリピンの専門医の臨床医療レベルは非常に高いと評価できる。フィリピンでもアメリカで専門医の資格を取っている医師の信頼度は高く、勿論報酬としての診察料や技術料も一般医よりは高額である。日本ではアメリカなどで最新の技術や研究を治めた専門分野研究医師の多くが大学などで教職につき直接患者を診察していく場合もあるが機会は少ない。しかし、フィリピンでは自分のオフィスで患者を診察しながらレジデント等の教育にあたっている。この点で、日本では大学教授等に直接診察してもらうのは困難な事が多いのと好対照である。
この進んだ専門医制にも問題がないわけではない。フィリピンで信頼のおけると評判の高い大病院程高度に細分化した領域の専門医たちがオフィスを持っている。そして、どの医師がどんな専門医の資格を持っているのかは分かりにくい。そこで家庭医や一般内科医といわれる医師の存在が重要になる。家庭医は患者を診察し、該当する専門医を紹介する。これによって専門医制度のもとでの適切な診療が可能になる。そして家庭医としては患者自身が普段かかる可能性の高い病院で研修し、その病院の医師達の専門分野を熟知した医師を選択するのが望ましい。
フィリピンでは、このような専門医制度下の医師の信頼性と同時に、病院についても考慮しなければならない。日本のような健康保険制度がない状態では、医療費は患者がすべて負担しなければならない。医療の内容も患者の負担できる程度に応じて大きく影響を受けている。貧富の差が激しいフィリピンには、経済状態の似通った患者がかかる病院が自然に出来上がっているようで、患者の経済階層による病院のランクが存在している。貧困層が集まる病院では医療も経済的な制約のために、どんな優秀な医師でも必要な検査すら出来ないと言う状態におかれている。このような過酷な条件下で診療を組み立てている医師が、全く異なる経済階層の満足いく診療を同時に行う事には困難がともなうことであろう。また多くの病院は検査や治療機器についてもある程度満足のものを揃えている事が多いが、経済レベルの低い階層を対象としている病院では、それを使えるチャンスが少なく技術面でも問題が出てくる事も予想される。このようにフィリピンでは、専門医制もあるが、病院それぞれが中心的に扱っている患者の経済的なレベルも検討対象にしていかなければならない。
日本では麻酔科が最初に経験や資格試験を伴う専門医制度を取り入れ、麻酔科学会が試験により認定医や指導医を認定して麻酔科学会認定医が麻酔にあたることを推奨してきた。そして、様々な学会が同様の制度を作りつつあるが未だに完全なものではない。全般的には麻酔のような新しく出来つつある特殊な専門分野では、麻酔科医などのように専門医が標榜して活躍するようになってきている。しかし、内科医、外科医でも麻酔専門医資格無しに麻酔をかける事は許されており事故が起こらない限り法的に問題にされることはない。最近になり、事故が起こった場合に訴えられる事が多くなり医師がおそれて麻酔を専門医に依頼する傾向が出てきた程度である。日本では、表面上内科、外科、小児科産婦人科など専門医的な標榜をする事が多くはなってきているものの、外科医が内科や小児科のような他の分野の診断治療にあたってもあたりまえの事とされている。
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