オープン病院システム |
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フィリピンではオープンシステムといわれる制度であり、根本的に医師と病院の関係、ひいては患者と医師と病院の関係が異なる。フィリピンではマニラ日本人会クリニックや日本で一般的に開業医院と呼ばれているような形式の入院ベットを持たずに規模な検査も出来るクリニックも医師の少ない地方等では例外的に存在する事もある。しかし、都市部の病院の多くは、日本の総合病院的な大規模なものがほとんどである。患者が訪れる街中の開業医のように見えるクリニックは医師のオフィスとよばれて簡単な診察と指示を与える事だけが出来る場所として規定されている。また、私達日本人に分かりやすいようにフィリピンの病院を表現すれば、病院は入院の為の宿泊設備と検査、治療、薬局の集合体として存在している。そして、それに隣接する形で多くの独立した開業医師がオフィスを持っている。
これらの病院内のオフィスの医師達は街中のオフィスの医師と同じで病院に所属する勤務医師ではない。そして、病院内にオフィスを持つ医師は複数の病院にオフィスを持っている事も多い。フィリピンでは患者を診る医師の立場は病院でも街中でも全く同じである。患者が検査や治療が必要になった場合は病院の検査、入院、手術室といった自分が登録していて使用が可能な病院の施設を利用する。病院内にオフィスを持つとそれらの施設を利用しなければならない患者にとっても便利なので患者も集まり易い。また医師も入院患者やその施設を利用するのに便利な為に病院内にオフィスをおきたがるのである。そして、病院内のオフィスは使用料が高額なので病院付近のビルにオフィスを持つ傾向がある。また、病院側もより頻繁に病院施設を利用する機会のあるより高度な専門医達を選抜して、病院内のオフィスを医師に貸与しようとする。また専門医制は検査部門にも及んであり、開業医が直接検査を行う事は少なく、病院に検査を依頼すると検査を行い放射線専門医、臨床病理医といった専門医が結果データに診断コメントをつけてそれが正式の臨床検査結果として依頼した開業医に利用される。これらの結果は最初に患者に検査をオーダーした医師に属するのではなく、患者自身が施設で検査を受けて別に金を支払って買っているので患者に属するという事が明白なシステムでもある。
フィリピンの開業医は、医薬分業、検査や治療施設の病院使用などのシステムの為に、純粋なアドバイス料や技術料が主な収入となる。個人や少人数の医師の投資だけでは現代の高額な高度医療機器を導入するだけの経済的蓄積は困難な為に、大規模病院にだけ集団で先端機器を導入し、多数の医師がより集まって利用しながら医療のレベルを確保するという戦略が取られている。オープン病院システムが個人資力の小さい社会経済状況もうまく吸収しながら、一定のレベルを確保できている面がうかがえる。
オープン病院システムの中では、病院の象徴とも言える入院施設はホテルと全く同じと考えて良い。特に日本のように専門科などによって病棟や使用ベッドがはっきりと決まっているのではなく、患者か入院させる開業医が病院のベッドを患者の経済レベルなどの条件に合わせて選択して予約する。そしてその部屋に往診をして治療を進めるという形をとる。ホテルとの違いは各階にナースステションがあり、入院させた医師の指示によって看護婦や開業医の手伝いをするインターンやレジデントと呼ばれる一人前の医師と認められる開業医の資格を目指して研修中の若い医師達が患者の観察や注射投薬などを行うために部屋を訪れる事である。日本が注射やその他の治療行為を医師だけに認め、看護婦には厳しい医師の立ち会い監督化においてのみ治療行為の一部の補助を認められているのとは違い、看護婦も医師の指示のもと多くの治療行為を行う者として位置づけている。
また、臨床検査施設も独立しており臨床病理医という専門資格を持つ医師のもとに臨床検査技師が採血から検査、検査結果をだし責任医師が解析までを行いそのサインの入った結果が患者に渡される。この検査結果は患者個人に属する者でありどの医師にかかった時でも使用される。これはレントゲンやCTスキャン、NMRなど他の検査でも同じで病院は専門の医師をおいて撮影を行い診断コメントをつけて患者に渡す。入院などの場合は病院での支払は伝票操作などで支払窓口で一括して支払う事が出来るようになってはいるが、ホテル料金、看護料金、各検査の料金、入院時に応援診察を依頼した医師の料金等が独立して計算されている。
オフィスは病院の建物内にもあるが、そこは病院の一部ではなく、あくまでも経済的には病院からは独立した医師個人が病院から借用したり買い取ったりしている施設であり、料金はこの医師個人に病院の会計とは別に支払わなければならない。この点は日本の病院では医師が病院から給料をもらい病院に所属して働いているのとは違うので注意が必要である。
患者は、通常はこのような独立開業している医師にかかり、そこで治療や病院施設利用の指示を受ける。しかし、各病院は24時間オープンしている救急室を持っており、日本流に開業医を通さずに病院にかかるという場合はこの直営の救急室が患者を受け付ける唯一の窓口になっている。ここでは、救急専門医を中心に病院に勤務してトレーニングをしているレジデントが救急専門医の指導の元に診療を行っている。このために軽傷の患者も救急室を受診しており、かなり順番を待たなくてはならないと言う状況も生まれている。
このシステムを簡単に理解するためには、オープンシステムの病院には実際に患者を診察し治療を行う十分な経験と資格を有する医師はいないと考えた方が良いであろう。フィリピンにおける病院とは医師の指示により検査を行い結果を患者に提供して、入院の場所と看護を提供し、さらに医師に手術施設などの環境を提供する場所をさすのである。従って、患者はこれらの病院の施設使用料は病院へ、医師の相談指示料や技術料は医師のオフィスへと分けて支払わなければならない。
日本には開業医と呼ばれる診療所、大小様々な規模の病院、そして大学の付属病院のような教育研究機関的な大総合病院がある。医師はそれぞれの診療所や病院に勤務し、その病院の中の検査治療機器等を使用して受診してくる患者を診察治療していく。原則として一つの施設内でそこに所属勤務し病院から給与をもらって働いている医師が一人の患者の治療を完結させるためにクローズドシステムと呼ばれている。医師の専門性の問題、治療診断機材などの関係で医師が他医に患者を紹介すると、その患者はその医師の手を完全に離れてしまう事が多い。患者も最初かかった医師に問題を見いだしたときには病院そのものをかえるのが一般的である。